チーム紹介
ガブリエル・スローイが描き直す北極の物語
2025年8月26日|10 分で読めます
弁護士を目指していた人が、アルバータ州北部の遠隔地にある先住民コミュニティに迷い込み、そのままそこを離れられなくなったとしたら、どうなるでしょうか? ガブリエル・スローイの場合、それが先住民の自治、資源をめぐる政治、そしてカナダ北極圏の変わりゆく未来を探求するキャリアの出発点となりました。政治学者でありながら語り部の心を持つガブリエルは、道路の届かない場所も含め、北部各地のコミュニティと何十年にもわたって密接に仕事をしてきました。研究を実践し、政策を練り、長老たちと語り合い、氷河湖に飛び込んだこともあります。Swan Hellenic とともに北西航路やトルンガット山脈を巡る近日予定の旅を前に、ガブリエルは、北極が息をのむような景色にとどまらず、人々が暮らし、統治され、変化し続ける世界であり、より深い注目に値する理由を語ります。
「私は対面で関わるタイプの人間です。遠隔操作で政治に関わることはしません。私たちに目が二つ、耳が二つあるのには理由があるのです。」
「先住民にとって自治は新しいものではありません。私たちが大勢やってくるずっと前から、彼らは自ら統治していたのです。」
こんにちは、ガブリエルさん! あなたの研究は、先住民のガバナンスからエネルギー政治まで、北極をめぐるさまざまなテーマに及んでいます。この複雑で魅力的な分野に、最初に関心を持たれたきっかけは何でしたか?
ガブリエル:当初は憲法学者を目指すつもりでした。ところが学生時代に法律事務所でパートタイムで働いてみると、実務はあまり性に合わず、法律という考え方に惹かれていただけだと気づきました。最終学年では、トロント大学で「ノースウエスト準州の政治」という講義を受けました。ちょうどその頃、新しいイヌイットの故郷となるヌナヴト準州が誕生しようとしていて、北部にはダイヤモンドがあるかもしれないと書かれた『グローブ・アンド・メール』紙の記事を偶然目にしました。「これは面白い」と思いました。ガバナンスと土地請求権についてレポートを書いてA+の評価を得て、ガバナンス、資源、先住民コミュニティの間につながりがあると気づいたのです。それがきっかけでニューブランズウィック州で修士号を取り、最終的にアルバータ州フォート・チペワイアンで自治担当官として働くことになりました。グーグルアースなど影も形もなかった時代に、地図も持たずに国を横断して飛び、当時「オイルサンド」と呼ばれていた地域のすぐ北にある、飛行機でしか行けないコミュニティに降り立ちました。私はそこのファースト・ネーションが条例や警備協定を作るのを手伝っていました。外から関わるのではなく、彼らと直接仕事をしていたのです。ですから、地理、好奇心、そしてタイミングが重なって、いつの間にかこの道に入っていたという感じです!
カナダ各地、そしてそれ以外の地域でも、先住民コミュニティと何年にもわたって直接仕事をしてこられました。そのことは、北極をどのように理解するかにどう影響したでしょうか?
ガブリエル:多くの人は北極を、写真や文学的なイメージを通して、広大で手つかずの、あるいは不毛の土地として捉えています。しかし先住民コミュニティにとって、そこは故郷です。私たちが「空間」と呼ぶものは、カリブーの回遊ルートであり、狩猟や移動の道でもあります。人々が盛んに利用している土地のネットワークなのです。確かに開けてはいますが、よく言われるように未利用だったり不毛だったりするわけではありません。コミュニティの中に身を置き、彼らの視点でものを見ることで、北極の現実が抱える課題と美しさの両方を、はるかに深く理解できるようになりました。
2025年には、Swan Hellenic のゲストの皆さまと、連続する二つの北極クルーズにご参加いただくのですね。北西航路を旅する方々と、特にどんなことを分かち合いたいと思っていますか?
ガブリエル:一番楽しみにしているのはトルンガット山脈ですが、北西航路にもとても期待しています。実際にそこへ行けるカナダ人は多くないので、その景色を目にし、初期の探検家たちがどんな思いでいたのかを想像できるのは、本当に貴重な機会です。フランクリン探検隊について一回分の講義を丸ごと行うのをとても楽しみにしていますし、イヌイットの方々が、その景観がどのように変わりつつあるかを語ってくれた話をもとに、別の講演も準備しています。ずっと話し続けることになるので、ゲストの皆さまに海へ放り込まれないといいのですが!
初めてカナダの北極を訪れる方々が、最初に知って驚くことは何だと思いますか?
ガブリエル:カナダ政府は、その歴史の大半において北極を無視してきたということです。第二次世界大戦でアメリカが関与するようになって、ようやく政府が注目し始めました。そしてその後、大きな変化が訪れましたが、その多くは痛みを伴うものでした。その一例が高北極移住政策で、政府は主権を主張するために、イヌイットの人々を強制的に移住させました。彼らは「人間の旗」のように扱われたのです。それにもかかわらず、イヌイットのコミュニティは今でもカナダ人であることを強く誇りに思っており、そこがこの物語の興味深い部分なのです。
教えたり研究したりしていないときは、北の地をどのように体験するのがお好きですか?
ガブリエル:正直に言うと、教えたり研究したりしていなかった時期など、本当になかったと思います! でも「好きなことを仕事にすれば、一日も働く必要はない」という昔からの言葉は、まさにその通りだと感じます。忘れられない経験もたくさんあります。真冬の夜にオールド・クロウで犬ぞりに乗ったこと、シャンパーニュ・アイシハイクの土地でポトラッチに参加したこと、ユーコンでの楽しいハイキングなどです。私は観光客ではありません。現地で過ごし、手伝いをし、そしてたくさんのお茶を飲ませてもらっています!
あなたの研究は天然資源の背後にある政治にしばしば焦点を当てていますが、デッキに立って漂う氷山を眺めるとき、どんなことが頭をよぎりますか?
ガブリエル:まだ実際にそこに立ったことはありませんが、そこが一番知りたいところです。洋上の石油開発やイッカクの回遊、地震探査について考えてきました。内容は知っていますが、実際にその場所を訪れるとなると話は別です。それが私の研究にとって大切なのです。私は現場主義で、遠隔操作で政治を扱うことはしません。コミュニティで教わったことの一つに、人間には目が二つ、耳が二つあるのには理由がある、というものがあります。私はそこで見て、聞いて、本当に大切なときだけ話すつもりです。ですから今回は、目と耳を鍛える絶好の機会になります!
今日の北極の政治状況について、クルーズのゲストの皆さまに理解してほしいことは何だと思いますか?
ガブリエル:「ひとつの北極」などというものは存在しないということです。非常に異なる文化と経験を持つ三つの準州があります。ユーコン準州、ノースウエスト準州、そしてヌナヴト準州で、それぞれがまったく異なります。実際、イヌイットの人々がデネ人やメティス人とは別個の統治を望んだからこそ、ヌナヴト準州が誕生したのです。これらはもはや単なるコミュニティではなく、政府です。連邦政府が彼らの行動を指図することはできません。これまではそうだったのですが、今ではこれらの準州も交渉の場に着いており、起きていることに対して発言権を持っています。それがカナダの北部での統治のあり方を変えつつあるのです。
最近のプロジェクトの一つでは、イヌイットの採用優先が南部の労働組合とどのように関わっているかを探っておられますね。講義の際、そうした研究をどのように興味深く伝えていますか?
ガブリエル:私の分野の中でも、このことを話題にする人はほとんどいないんです! ヌナヴト準州は、熟練技能者の85%を域外から受け入れています。これは非常に大きな数字で、つまりイヌイットの人々が仕事の機会を逃しているということです。ただ、状況は変わりつつあります。あるイヌイットの団体は、狩猟者や縫製の職人が自分の技能を入力できるアプリを作りました。そのアプリは、それらの能力を市場で評価される職種に置き換えた履歴書を作成し、人々が仕事を得られるようにするのです。これは経済的な和解のための戦略であり、伝統的な暮らしと現代の機会を結びつける方法を見つけるための取り組みなのです。
あなたの仕事は、北極が広大で手つかずなだけでなく、政治的で、人々の暮らしが深く息づく場所でもあることを思い出させてくれます。講義の際には、その緊張関係にどう向き合っていますか?
ガブリエル:私はいつも上手にできるわけではありません。イヌイットの講演者のほうがずっと上手なことが多いです。ただ、私が心がけているのは、写真を映して「何が見えますか?」と問いかけることです。何も見えなければ、もう一度よく見てほしいと伝えます。『マトリックス』という映画で、表面の裏にあるコードが真のネットワークを示しているのと同じです。北極もそれと同じで、高層ビルや高速道路はないけれど、一つの都市なのです。意味、つながり、そして道筋に満ちています。私たちはそれを読み解く方法を学ばなければなりません。
あなたは土地、権力、コミュニティについて多くを書いてこられましたが、北極への旅の中で、一番「人間らしい」と感じた瞬間は何ですか?
ガブリエル:ポトラッチや氷河へのハイキングなど、本当に素晴らしい経験を数多くしてきました。心に残っている言葉があります。ある時、長老に協定や土地請求権、条約について尋ねたところ、「もう尋ねる必要はない、ということだよ」と言われました。インディアン法の下にあった時代、彼らは連邦政府に何かを求めなければなりませんでした。しかし今は、政府として自分たちで決めることができます。ですから、それは力強い言葉に感じられました。もう一つ心に残っているのは、「うちの子どもたちは、片足はモカシン、もう片足はランニングシューズを履いているんだ」という言葉です。二つの世界の中で生きるというその考え方が、今まさに北極で起きていることを、とてもよく捉えていると思います。
船内でオフの時間には、いつもどんなことをして過ごしますか?
ガブリエル:ホットチョコレートです。迷う余地はありません! 泳ぐのも大好きですが、氷河の水には頭まで潜らないほうがいいと学びました。最初にユーコンを訪れたときに、それを強く実感したのです。セントイライアス山脈で、三人の娘さんと彼女たちのお母さんを含むグループと一緒にいました。氷河まで歩いて行き、水に入りました。暑かったので、私は頭まで潜りました。顔を上げた瞬間、冷たさで頭蓋骨をレーザー光線で貫かれたような感覚でした。娘さんたちは大笑いして、誰も頭まで水に浸けたりしないと教えてくれました! その教訓はすぐに身に付きました。今では水には入りますが、頭は絶対に潜りません! もちろん、たくさんおしゃべりもするつもりです。ゲストの皆さまのことにはとても興味があります。なぜこの旅を選ばれたのか、何を学びたいのか。そこにこそ、本当の魔法が生まれるのです。
北極圏の各地のコミュニティと関わってこられましたが、北の地での日常生活について、人々が予想していないことは何ですか?
ガブリエル:家々には水を運搬車で届け、汚水は毎日ポンプで汲み出します。地下の配管はありません。ほとんどの町には「ノーザン」と呼ばれる店が一つあり、おむつからスノーモービルまで何でも買えます。リサイクル施設もありません。舗装された道路もなく、すべて土の道です。多くの人が驚くことですが、それがカナダ北極圏の日常生活なのです。
自己決定や和解といった大きな政治的概念を、旅行者の皆さまにとって身近で興味深いものにするには、どうしていますか?
ガブリエル:それは教えることと同じです。人間の規模に落とし込むのです。自治は新しいものではありません。私たちが来るずっと前から、先住民の人々は自ら統治していました。今大切なのは、彼ら自身が自分たちの道を選ぶことです。和解とは、私たち入植者が先住民に対して与えてきた傷を認め、癒やしと関係修復のための場をつくることです。その意味で、このテーマへの私の情熱と熱意が、人々の理解を後押しできればと思います。
北極をさまざまな光の中で見てこられましたが、昼と夜が何週間も続く場所にいるというのは、どんな感覚ですか?
ガブリエル:それは素晴らしい体験です。2月に訪れたときは、太陽が10時に昇り、地平線に沿ってゆっくり進んでから沈んでいきました。夏には、太陽が決して沈まない時期にも訪れました。最初の時は、アイマスクを持っていくことを知らなかったのですが、今ではちゃんと学びました! それもまた、北極を特別な場所にしている要素の一つです。すべてが違っていて、光の働き方さえも違うのです。
これまでの研究、旅、そして教育を経て、カナダの北極について、戻るたびにいまだに驚かされることは何ですか?
ガブリエル:それは決して同じではないということです。政治的にも、文化的にも、環境的にも、常に変化し続けています。人々は北極を不変のものと考えがちです。でも、海氷やそこに暮らす人々と同じように、絶えず動いているのです。それこそが、私がここに戻り続ける理由です。